晴香園
青森県
誰もが皮のまま食べられるりんごを
私が無農薬栽培を始めたのは、化学物質過敏症という病気で苦しむ方々の存在を知ったからです。平成5年から取り組みはじめ、平成12年にはじめて農薬を使わない栽培に成功しました。
りんご栽培には通常、32〜35剤の農薬が使用されます。りんごの無農薬栽培が不可能に近いといわれるのはそのためで、1割収穫できればいい方と言われていました。ようやく成功した無農薬栽培のりんごは手間暇をかけても1本の木になる実がとても少なく、現在でも農薬を使う栽培の1/2〜1/3しか収量がありません。
それでも続けているのは「おいしくって皮も芯も丸ごと食べています」「いままでは食べられるりんごがありませんでした」「りんごが大好きです。今日はとても幸せで涙が出ました」と、全国の化学物質過敏症の皆さんから感謝の手紙が寄せられるからです。当園のりんごが受け入れられ、支持されたことは何よりの喜びや生きがいです。
地球の命までをも考える基軸を持つ
青森県のりんご産業は130年の歴史があります。県りんご試験場や弘前大学農学部から、農薬中心の生産情報や防除暦などがりんご協会(生産者の組織)や農業普及センター、農協を通して各農家に流れ、生産者への支援体制が万全なのです。
ですから、青森県では頭を取り替えるくらいの覚悟がなければ有機栽培に取り組むことはできません。近所のりんご農家からも奇人変人扱いを受けました。自分の命と他人の命と地球の命まで考えるという基軸を心の中に作らないとぶれてしまいます。しかし、母の支え、生活指導員をしてきた妻の泰子の理解と努力があり、困難な道を歩んでこられました。
病気のお客さんを優先
(奥様の泰子さん)うちのりんごをインターネットで買ってくださっている大阪の若者が、畑を見に来られたことがあります。「生活にお金がかかっている病気のお客さんにだけ、りんごを安くお売りしています」と説明したら、「お母さんの考え、素晴らしい」と拍手してくれたのが印象的です。
私は北海道の短大で栄養士の勉強をして弘前の農協の職員になったため、食や健康の基礎知識がありました。人が何と言おうと、どんなに辛くても、真実を追いかけようと決意したのです。
ですが道のりは険しく何年も挫折続き。もうこれまでかというときに、りんご酢を栽培に活用している岩手県のりんご農家の話を聞きました。りんごの未熟果実には成熟果実の5~ 10 倍の天然ポリフェノールが含まれているというのです。摘果した青い未熟果でアップルビネガーを作り、りんごの木に散布しています。それが功を奏しました。
26 歳で結婚した当時から、農薬に対して夫は半歩先を考えていて、他の人とは違うと感じました。若いときから常に夢を抱き、自分のことで精一杯。80 歳になろうというのに、まだ夢を追いかけています。今年から、りんごを植樹して圃場を広げる計画に着手しています。